セバスチャン・リフォー
Sebastien Riffault
本拠地:ロワール・サンセール
銘醸地サンセールの常識にとらわれない挑戦
ロワール地方ソーヴィニヨン・ブランの銘醸地として知られるサンセール。名だたる産地であるがゆえに、セバスチャン・リフォーのワインは、サンセールという既成のおいしさの枠組みから外れているとか異端であるといわれます。それは、サンセールやソーヴィニヨン・ブランに誰もがいだく爽快な辛口という印象を越え、ほかに類をみない濃厚で複雑みをそなえた魅惑的な味わいが特徴だからです。常識を意識せずに、素直に味わえば、そんなことを議論するまでもない個性、それがセバスチャンのワインです。セバスチャンは「レストランの味わいはシェフで変わる、ワインの味わいも造り手によって変わって当然。サンセールで僕が造る、だからこの味わいなんだ」と語ります。サンセールの地で代々、農業を営む家に生まれたセバスチャン・リフォーは、ワインの自家栽培・自家醸造を本格的に始めた父のもとで、幼い頃からブドウの成長を見守り、収穫の手伝いをしながら自然のなかで多くの時間を過ごすなかで、自分も将来同じ道を歩もうと決意したといいます。大学でワイン醸造を学んだあとは、家業を継ぐまえに、世界のワイン市場の動向を知りたいとロンドンのワインショップで仕事に就きました。そこでの衝撃的なワインとの出会いにより、彼のワインの常識が覆ります。ナチュラルワインとの出会いでした。その運命に導かれ、パリのワインショップ「ラ・ヴィーニャ」で働きながら、ナチュラルワインの知識を深めました。2004年、家族の住むサンセールに戻り、本格的に自分のワイン造りを始めます。サンセールという既成にとらわれない、より良い自然なワインを造る彼のチャレンジがスタートしたのです。
リスク覚悟でブドウの力を極限まで追求する
ブドウ栽培では、化学肥料や化学薬品などを用いず、自然の摂理にしたがったビオディナミ農法を実践します。土地やブドウの力を信じて、できる限る自然な栽培を心がけながら、サンセールのほかのブドウ栽培家たちが採用する保守的な手法にとらわれず、健全なブドウを作り、完熟させることに注力します。凝縮したエキスや旨味のつまったブドウを得るために化学肥料を施さず、ブドウの粒を小さくし、低収穫量におさえます。厳しい剪定により収穫量は最大でも30hl/haを実現していますが、これはブルゴーニュの特級畑と同じくらいの収量です。熟度をあげるために、しっかりと貴腐菌が付くのを見計らって収穫しますが、サンセールのなかで最遅のタイミングになります。貴腐菌が付くまで収穫を待つのは、大きなリスクをともない覚悟がなくてはできません。ですが、セバスチャンはこの完熟度の度合いに強いこだわりを持っています。裏返していうなら、大量に収穫され未熟なブドウで造られる半分工業製品的なサンセールのワインは、土地と造り手の魅力に欠けていているという考えの現れにも感じられます。「50年前のサンセール…この土地のワインは貴腐がついたころに収穫され、その完熟度でワインを造るのが一般的だった。その頃の自然で伝統的な造りを再現しているだけだし、本来のあるべき姿に戻しただけだ」と語る、セバスチャン。所有する畑は、合計で12haにおよびますが、上級キュベの畑はトラクターを使用せず馬で手入れをします。ブドウへのストレスや土へ与える影響を最小限に留めるため、手間をおしみません。2007年からはカリテ・フランス*のBIO認証を取得しました。彼のブドウ栽培は、品質を最優先とし、ブドウのポテンシャルを極限にまでに追求する強い意志と情熱、そして努力の結晶ともいえます。 *カリテ・フランス=公的に認められた有機の認証団体
貴腐菌がもたらす複雑味と圧倒的な存在感
醸造においても、人為的な介入を極力さけて自然に任せた造りを徹底します。培養酵母、補糖、補酸はもちろん、上級キュヴェに関しては酸化防止剤(SO²)を使うこともありません。ブドウは、収穫後ゆっくり4時間もの時間をかけ優しくプレスします。セバスチャンは「ブドウに完熟や糖度を求める目的は、甘さを表現するためでなく、味わいに複雑味をもたらすため」といいます。糖度が高いと発酵期間が長くなりますが、その期間の長さと複雑性は比例すると考えるからです。驚くことに、彼のワインはステンレスタンクで一年もゆっくりと発酵を続け、古樽で二年というゆっくりとした熟成を経て、瓶詰めされます。サンセールでは醸造時に酸化防止剤を添加することで二次発酵の発生をおさえ、フレッシュなリンゴ酸を残すように造られるのが一般的ですが、彼は人為的な操作を好みません。結果、自然にマロラクティック発酵(第二次発酵)がおこり、彼のワイン特有のまろやかさや繊細さが生まれるのです。さらに、澱引きをせずシュール・リーで熟成させることにより、ワインに存在感と旨みを引き出します。「自然の理のままワインを造ればこうなるんだ。時間をかけた発酵や熟成などの醸造がもたらす味わいの変化だけでなく、ビオディナミ農法によって酸の一部が塩気やミネラル感へと変化し、味わいに深みをあたえてくれた」とも話す、セバスチャン。凝縮した果実の圧倒的な存在感と複雑な余韻、サンセールの類いまれなる個性は、こうしてワインに描きだされるのです。
本来あるべきサンセールの姿、ここにあり
サンセールは、粘土質、白亜の石灰岩(キンメリジャン)、火打ち石(シレックス)と様々なタイプの土壌が複雑に入り組んだ地形で、それぞれに異なるテロワールを持っています。セバスチャンは、それぞれの区画ごとに醸造し、その個性を最大限に引き出します。彼のワインは、畑の特徴を表すリトアニア語を冠していますが、これは奥さまの母国語であり、オクシニスは「黄金に輝く」という意味です。この畑は、平均樹齢50年の高樹齢のブドウが植わっており、小石のまじった粘土石灰質の土壌です。エチケットの山のイラストはキュベによって色合いが違い、収穫時のブドウの色を表現しています。熟し方や貴腐菌のつき方によりブドウの色が違うことを、エチケットで表しているのです。ワインの色調は、ゴールド、オレンジ、褐色と時間とともに変化を見せます。杏のコンポートやオレンジママレードの濃縮した香りにやや酸化のニュアンス、クリーミーで厚みのある果実味は存在感はありながらも、豊富なミネラルに支えられ滑らかに広がり、後味には凝縮した旨味が心地よく感じられます。オリエンタルでエキゾチックな表情ものぞかせる複雑な余韻は、純粋さをもって飲むものの心にしみ入ります。サンセールというイメージに挑戦する造り手、セバスチャン・リフォー。サンセールに隠された真実を、本来のあるべき姿へと戻し、土地の個性、造り手の表現として描き出した彼のワインは、「世界のベストレストラン50」で首位に輝くデンマーク・コペンハーゲンの『NOMA』のワインリストにも採用されています。これまでとは違うサンセールの扉が開かれる、セバスチャンの感動の世界をぜひあなたもご体験ください。